(2008年度eco japan cup 三井住友銀行賞受賞)
岩元美智彦社長 |
日本で消費される衣料・繊維製品の8割、およそ170万トンが実はごみになっていることをご存知ですか?
衣料・繊維製品は使用される素材の種類が多様でリサイクルが難しく、従来は全体の1割ほどの綿繊維が工業用ウエスとなる以外にリサイクル方法がありませんでした。残りの1割がリユースとして東南アジアなどへ輸出するほかは、焼却や埋め立てにまわるばかり。衣料・繊維製品はもっともリサイクルが遅れた分野のひとつです。
●世界でもめずらしい、綿繊維からバイオエタノールを作る工場
“とうもろこしの糖からエタノールができるらしい。それなら糖に分解できるセルロースが主成分の綿繊維からでもエタノールはできるはず”
たった2人で資本金10万円で会社をおこした2007年に「Tシャツからバイオエタノールを作る」実験を繰り返してeco japan cupに挑戦。翌年2008年に実証プラントを作り、見事バイオエタノールの生成に成功してeco japan cup 三井住友銀行賞を受賞しました。このプラントでは、繊維製品をバイオエタノールにすることが可能です。
糖化した衣料品 |
岩元さんは、あらゆるごみ(使われなくなった有機物)に含まれる元素『C(炭素)』に着目しています。この炭素を資源循環すると、エタノールをつくることができます。
“わたしたちはごみという言葉が苦手なんです。実はごみというのは人間の都合で考えた概念で、ごみも物質なんですよね。地球上の物質は全体としてとらえると一つなので、どこかで物がごみになったとしても、全体としては増えることも減ることもない。上手に循環させれば、ごみから資源がまかなえるんです”
●エネルギーの地産池消を
日本の家庭からでるごみは年間4,500万トン。これを日本環境設計の技術で再生すると約1,100万トンのエタノールが再生されるそう。家庭ごみ、すなわち有機物をバイオエタノールにリサイクルすれば、石油を輸入することなく国内の総使用量と同等のプラスチック資源を国内で作れることになります。
繊維リサイクルの流れ |
使わなくなった有機物を効率的に循環させたら、石油価格に勝てる資源になる、エネルギーを地産池消できるようになる、と岩元さんは続けます。
●「ハチのマーク」で「リサイクルしたい気持ち」をつなぐ
原子レベルのリサイクル技術開発に挑戦し続けたのは、消費者のリサイクルしたい気持ちを抑制することなくつなぎたいという思いからでした。
“環境動線を作りたいんですよね。人って、物を大事にしたい、リサイクルしたいという気持ちを持っているじゃないですか。生活動線上にリサイクルボックスがあったら、 その気持ちをそっと入れられる。子どもが大きくなってお気に入りのおもちゃがいらなくなっても、やっぱり生ごみと一緒には捨てたくない。お客さまにとって、ごみと一緒に捨てたくないものが「衣類」「おもちゃ」「文具」でした。企業が お店で回収できるものも同じ。じゃあ、お客さまとお店と一緒にリサイクルをしましょうと”
日本環境設計は4年前から、メーカーや小売店に呼びかけて2つの店頭回収プロジェクトを全国展開しています。「あなたの服を地球の福に」というメッセージで服や繊維製品を回収する「FUKU-FUKUプロジェクト」と、「プラスチックを地球のプラスに」と呼びかけてプラスチックのおもちゃやボールペンなどを回収する「PLA-PLUSプロジェクト」です。どちらも、とってもかわいいハチのマークが目印です。
FUKU-FUKUプロジェクト実施中の店舗 |
現在、FUKU-FUKUプロジェクト、PLA-PLUSプロジェクトあわせて全国900拠点が参加しており、昨年は40万人の消費者がPLA-PLUSプロジェクトに参加しました。
(今年度のPLA-PLUSプロジェクトの実施時期はただいま調整中)
“新しいものを買ったら、ハチのマークのリサイクル袋に古いものを入れて送ってもらう。新しい物々交換です。ハチのマークの商品を、ハチのマークのボックスへ。 わかりやすいでしょう。これを文化にしたい”
このプロジェクトは小学校の教科書にも掲載され、ユネスコと国連が提唱するESD教育(持続可能な開発のための教育)プログラムとして、今年も全国40校以上の幼稚園で1万人のこどもたちが参加します。
昨年度のESDプログラムの様子。楽しそう! |
●「リサイクル」のその先へ
“エネルギーを地産池消できるようになれば、産出国の情勢で価格が変動することもなくなるし、資源の奪い合いで起きる戦争もなくなるんです”
とてつもない話を、ニコニコと楽しそうに話す岩元さん。
目先のことでは文化は作れない、と、真剣なまなざしで続けます。
“消費者、小売、メーカーを巻き込んで、こういう社会を作りたい。難しいし大変だけど、意義があるんですね。リサイクルの市場を作り、リサイクルの雇用を作っていく。自分たちの会社の事業だけじゃなくて、大切なのは将来の産業をどう作るか、どういう雇用を作っていくか。試算では30万人から40万人の雇用ができる市場の可能性があります。それを、何でもいきなりではなく、まずは衣料品、プラスチック、おもちゃ、ボールペンなど袋に入るものから。できることから少しずつ、文化にしていきたいと思っています”
「ハチのマーク」のタグが付いた、リサイクル権付きのポロシャツ |
石油に代わる資源を作れる未来も、もう間もなくに近づいているようです。
壮大なビジョンを、あきらめずに続けられるのはなぜなのでしょう?
“結局苦労って、何か対比することがあって苦労じゃないですか。対比するものがないから。完全に夢を追いかけていますね”
岩元さんのお話を聞いていると、なんだかいけそうな気がします。
“バックトゥザフューチャーという映画はご存知ですか。プルトニウムを燃料にしていたタイムマシンの「デロリアン」が、シリーズの2では家庭用生ごみを燃料にして未来へ向かって動き出す。それを日本で実現したい。日本で実現すべきだなと”
映画「バックトゥ・ザ・フューチャー2」の舞台は来年2015年10月21日。
「できるんです。やろうとおもったらできるんです。できるんです」と、
岩元さんはおだやかに、力強く繰り返していました。
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